2021都市住宅学会賞・業績賞

 

 公益社団法人都市住宅学会では、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、「都市住宅学会賞業績賞」として表彰しております。
 このたび2021年度都市住宅学会賞 業績賞 国土交通大臣賞として1業績、同 都市住宅学会長賞として8業績を選考し、表彰いたしました。
 今回受賞した各業績は講評に示されるように、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。



【国土交通大臣賞】


◆大阪府営住宅ストックの地域資源化

大阪府(代表 大阪府知事 吉村 洋文)


プロジェクト概要:PDF

大阪府が府営住宅ストックを地域社会の課題にこたえる用途に転換し、活用している事業である。府がイニシアティブをとって、府営住宅の所在する市町のさまざまな部局と連携し、地域ニーズを把握、掘り起こすことで、子育て支援、子どもや若者の居場所、高齢者の見守り、障がい者支援などの拠点が、府営住宅の中に数多く整備されている。 公営住宅の中に生活に寄り添う多彩な支援サービスを提供する場が生まれ、居住者はもとより、団地周辺の地域住民の福祉の向上にも寄与している。各拠点の取り組み内容はいずれも、個々の地域社会の課題に応答するもので、大規模な公的住宅団地を抱える他地域にも参考になる。本事業はまた、住宅に用途純化された公営住宅団地の今後のあり方を考えるうえでも、大変示唆に富む実践と言える。
 以上より、本事業は、国土交通大臣賞に相応しいと認められる。




【都市住宅学会長賞】


◆造幣局地区における防災公園街区整備事業を活用した防災性向上と賑わい創出
〜としまみどりの防災公園(IKE・SUNPARK)〜


独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部


プロジェクト概要:PDF

 豊島区東池袋の造幣局東京支局跡地において、周辺の木造住宅密集地域の防災性の向上に資する「防災拠点の整備」と、豊島区が目指す国際アート・カルチャー都市構想における「賑わい機能の創出」という2課題について、UR都市機構と豊島区が協力して1.5haの市街地整備計画とあわせた防災公園街区整備事業により1.7haの防災公園を整備したものである。設計施工から管理運営、Park-PFIまで一体的に行う者を公募し発注するという独創的な事業手法を用いて、地域住民や来街者が使いたくなる公園を実現している。また、IKEBUS(コミュニティバス)がプロムナードに取り込まれるなど、交通計画とも連動した先進的な取り組みである。豊島区の池袋駅周辺地域基盤整備方針2018では、応募公園を含む4つの都市公園を「アートカルチャーハブ」と位置づけているが、本事業は新規整備であり、かつ、都市防災を正面から受け止めてデザインとプログラムを展開しており、都市拠点開発と公園整備という点から重要な意義を有している。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆「国際交流シェアハウス やどかり」の取り組み

特定非営利活動法人Oneself
理事長 中野 みゆき


プロジェクト概要:PDF

 本事業は、神戸で日本語を学習する長期および短期留学生等に安心で安全な生活をしてもらうことを目的に2015年に開設された国際交流シェアハウスの取り組みである。保証人や敷金など、日本の賃貸住宅の障壁を旅館業法上の手続きで緩和しつつ、管理者が常駐する建物の2階部分を地域の共用スペースとして活用するなど、独創的な計画コンセプトが認められる。居住者のニーズを丁寧に汲み取り、日本語学習の支援のみならず日常の生活から住宅、健康、就労、地域生活にいたる種々の問題解決を図っていく点で、都市住宅問題への適切な対応を図るものとなっている。また、コロナ禍において在留外国人が厳しい状況に置かれる中、余剰食品を集めて配布するフードドライブの取り組みを行うなど社会的な福利厚生の増進にも努めている。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆農園付き木造賃貸アパートメント「京都小箱」

木村 準

プロジェクト概要:PDF

 本事業は、放置竹林の開墾と隣接の老朽化した文化住宅の再生を一体的に行い、畑づくりを介したコミュニティの形成をめざす農園付き賃貸集合住宅である。 住宅の改修では、住戸の一部をメゾネットとすることで住戸規模の拡大と接地性の向上を高めるとともに、ファサードに2層分の木製縦格子を立ててプライバシーへの配慮や中間領域の形成をはかっている。また、カフェ風の集会所や近隣に開かれたミニ庭園など気軽に集える場を設けて交流の機会をつくりだしている。各戸に付帯する10坪の農園は、肥料や道具などは管理費で賄われ、専門家による栽培指導の機会も提供されており、農園作業を通して居住者どうしが緩やかに出会う場と位置付けられている。 本事業は、都市性の高い暮らし方を前提とした文化住宅の再生と、農ある暮らしを志向する若者の存在を顕在化させるとともに、さらに将来、郊外の戸建住宅に住んで畑づくりをする準備段階としての住環境のモデルを提示した点で高く評価される。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆「DIY」を通じて、茶山台団地のくらしを楽しくするコミュニティスペース
「DIYのいえ」

大阪府住宅供給公社   理事長   山下 久佳
株式会社カザールホーム 代表取締役 中島 久仁

プロジェクト概要:PDF

 本事業は、無料でDIYの相談や工具の貸し出し、サポートを受けられる工房を、用途廃止した団地内住戸で運営する取り組みであり、リタイア後のシニア男性スタッフの活躍により、団地住民に限らない新たな地域の支え合いを実現している。 事業の背景には、住宅の長期メンテナンスに携わるなかで、リタイア後のシニア男性の急激な衰えを目の当たりにして、彼らの趣味を活かした地域ビジネスの実現を構想した地元不動産リフォーム会社((株)カザールホーム)と、団地のDIYを推進するなかで、身近なDIY相談・サポート機能の必要性を感じていた大阪府住宅供給公社の意見の一致がある。また、泉北ニュータウンの中古戸建は区画が広く、若い世代の手に届きにくい価格となっている。DIYによって費用を抑えて中古住宅を購入できるように支援することで、ニュータウンの良好な環境を次世代へ継承することも意図されている。なお、DIY工房の光熱費やスタッフの賃金は、(株)カザールホームが負担しているが、将来の自立した運営を目指して、手すりの設置、団地に適した省スペースの家具や木製おもちゃの開発、壁紙・ペンキの販売なども実施されており、今後の同様の取り組みの参考になる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆歴史博物館から発信する大阪の町家と住文化の魅力
−子ども・若者・外国人に町家と住文化を理解してもらうための動画制作プロジェクト−


大阪くらしの今昔館 前館長   谷 直樹
大阪教育大学教授        碓田 智子
大阪くらしの今昔館 特別研究員 岩間 香
大阪市住宅供給公社       渡邊 望


プロジェクト概要:PDF

 本事業は、「大阪くらしの今昔館」の江戸時代の町並み展示を活用して、大阪の町家の建築と生活文化を伝える教育動画を制作し、YouTubeで配信するものである。変化した現在の町家でなく、江戸時代当時の建築と生活が学べる点で他の動画にはない独創性を備えている。また、制作された動画は教育効果の高い内容に加えて、外国人留学生がナビゲートする演出など様々な工夫がなされており、高く評価できる。本動画は、海外旅行者や社会科見学等の団体見学者に対する事前学習教材としての活用を意図するものであるが、今後のICTを活用した授業においても優れた教材を提供している。コロナ禍における博物館の情報発信の面でも先駆的な試みであり、日本の伝統的な生活文化を世界に発信するツールとして今後の展開が期待できる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆空き家問題解決手法の実証調査・研究に関する取組み〜空き家相談の実践を通じて〜


一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 代表理事 米田 淳


プロジェクト概要:PDF

 事業者は、大阪市24区の空き家相談窓口と連携した空き家相談ホットラインを開設するとともに、空き家の発生要因や相談手法、具体的な対策などについての実証的調査・研究を蓄積し、それを踏まえて、まちなか空き家相談取次ぎ連携促進事業、空き家管理マニュアルの出版、空き家相談対応マニュアルの出版などを行っている。とくにまちなか空き家相談取次ぎ連携促進事業は、相談窓口に来られない、あるいは問題意識の低い所有者に対して、NPO法人、自治会、地域包括支援センター、社会福祉協議会等との連携のもとで、複数の具体的な選択肢を提示して課題解決につなげるという独創的な事業である。市場で流通しにくい空き家を積極的に取り扱っている他、借地権付建物や「空き家等対策の推進に関する特別措置法」の対象にならない連棟式建物など、密集市街地特有の空き家相談対応などの成果もあげており、流通性や活用性の乏しい空き家の相談・対策のあり方について、調査と実践を兼ね備えた活動を継続していることが高く評価される。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆千里ニュータウンにおける団地再生事業
〜はぐくもう。URのある街。千里グリーンヒルズがはじまります〜


独立行政法人都市再生機構西日本支社 支社長 田中 伸和

プロジェクト概要:PDF

 大規模団地の高経年化への対応として、本事業は、一部建て替えという方法を提起している。段階的に建て替えを行い、十分な時間をかけてまち全体を求められる姿に変えていく。この方法の利点は、現在のコミュニティを維持しつつ、漸進的に新たな人口を受容、将来の不確定要素にも柔軟に対応できることである。また、建て替え前後で建物の形状や位置が大きく変化せず、既存の公園や樹木も残り、街の風景や場所の特性が継承される。建て替え住棟では、新旧住民の交流を促進するため、集会所の一角にオープン・キッチンのある共用空間をとるなど、建築計画上の工夫もみられる。入居者構成を緩やかに調整するこの手法は、都市住宅政策にも有用な示唆を与えている。大規模団地の再編手法として、また今後の建て替えによるまちづくりを考える上でも示唆に富み、発展が期待される。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆千住地域における空き家利活用の促進を目的とした一連の取組みによるエリアデザイン


株式会社ARCO architects 青木 公隆

プロジェクト概要:PDF

 東京都足立区千住地区における空き家利活用の事業において、受賞者は地域に根ざした建築家、社会起業家、コーディネート組織事務局の複合的な役割を果たし、全体のマネジメント・各種取り組みの企画を一貫してサポートすることで、官民協働の事業を効果的に推進している。足立区(住宅課、シティプロモーション課)、空き家大家、入居希望者、地元不動産業者、地元金融機関等のステークホルダーの間で信頼関係が構築されており、パイロットプロジェクト「せんつく」がモデル的な役割を果たし、8事例が完成、さらに複数のプロジェクトが進行中で、まちづくりファンド設置の検討など、空き家事業の継続的発展、他地区への波及効果が期待でき都市住宅に係る実務や研究の発展への貢献が大きい。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。





2021年度都市住宅学会業績賞審査員

伊藤 香織  東京理科大学理工学部教授
市古 太郎  東京都立大学都市環境学部教授
神吉竜一   兵庫県住宅供給公社
小浦 久子  神戸芸術工科大学環境デザイン学科教授
田端 和彦  兵庫大学生涯福祉学部教授
佐藤 由美  奈良県立大学地域創造学部教授
生川 慶一郎 京都美術工芸大学工芸学部准教授
弘本由香里  大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所特任研究員
藤岡 泰寛  横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授
室ア 千重  奈良女子大学生活環境学部准教授
安枝 英俊  兵庫県立大学環境人間学部准教授
山鹿 久木  関西学院大学経済学部教授
山口 健太郎 近畿大学建築学部教授
                               (敬称略・五十音順)


2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年
2014年2015年2016年2017年2018年2019年2020年/2021年