2011都市住宅学会賞・業績賞

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社団法人都市住宅学会では、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、 2006年から「都市住宅学会賞業績賞」として表彰しております。
 2011年業績賞選考では、従来から表彰対象としてきた単体事業だけでなく、「社団法人都市住宅学会設立20周年記念事業」として、20年という長期の学会活動とも平仄をあわせるような、長期に亘る複数事業の集合体に関しても、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、選考・表彰することとなりました。このたび2011年都市住宅学会賞業績賞につき、学会設立20周年表彰として3業績を、従来からの表彰として2業績を選考し、第19回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
 今回受賞した各業績は講評に示されるように 、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。



2011年都市住宅学会賞業績賞(社団法人都市住宅学会設立20周年記念表彰)

◆斜面地における集合住宅の計画


独立行政法人都市再生機構西日本支社
遠藤剛生(株式会社遠藤剛生建築設計事務所 所長)
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名塩ニュータウンは、斜面地という立地条件の中で、集合住宅の可能性を極限まで追求した好例である。地形を生かして、住戸、クラスター、オープンスペース、街並みの各レベルで統一性(調和)と多様性を実現している。敷地内から望む景色の見え方に対しても十分に配慮がなされており、一住宅地でこれだけ多様な表情、風景のある計画は他に類をみない。名塩ニュータウンは1991年の「街開き」以来、年々建設を重ねられ、建設後20年たっても良好な住環境を保ち、当初のコンセプトが活きた形でまちづくりが続いている点からも計画およびデザインの方向性が間違っていなかったと解釈できる。利用しにくい斜面地であっても、計画・デザインの知恵とエネルギーによって、持続可能かつ質の高い住環境は可能であることを実証している。都市住宅学会賞業績賞の設立20周年表彰に相応しい事業として評価される



◆大阪ガス実験集合住宅NEXT21における継続的な居住実験のしくみの構築とその実施及び成果の発信

篠倉博之(大阪ガス株式会社 リビング
事業部リビング開発部 技術企画室 技術企画チーム 副課長)
志波徹(大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所 主席研究員)  
加茂みどり(大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所 主席研究員)
 
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本事業は、建設当初より評価の高い実験集合住宅NEXT21において、18年にわたり、複数の多様なテーマにより、居住実験を実施したもので、多くの研究者等の実験・研究への参加を促し、実現するための組織・仕組みを構築し、更に、受賞者ら自身も実験・研究を行い、多くの成果を得、それらを広く社会に発信し、その内容は、社会的に多大の影響を与えたものといえる。このような、大規模かつ長期的に実施した検証型の居住実験の事例は、過去に類例をみないもので、独創性は高く、これら全体に、受賞者らが一貫して携わったことは、大きく注目され、その実行力と共に、その評価は高いものといえる。これらの実験成果の発信等々は、次世代住宅としてのスケルトン・インフィル方式集合住宅の先導的な形を示し、同様のコンセプトに基づく集合住宅の普及に、大きく貢献したものといえる。以上から、本事業は、特定の都市住宅事例(NEXT21)において、長期間にわたり複数事業を展開した極めて優れた事業であり、都市住宅学会業績賞の設立20周年記念表彰に相応しい事業として評価される。


◆新橋・虎ノ門・六本木地域における都市再開発

森ビル株式会社
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森ビル株式会社では、アークヒルズ(1986年)、愛宕グリーンヒルズ(2001年)、六本木ヒルズ(2003年)など、東京都港区の新橋から虎ノ門、六本木の地域を中心として、垂直緑園都市(Vertical Garden City)という統一コンセプトの下、面的な大規模複合再開発を25年の長期間にわたって継続して実施してきており、さらに現在も複数の再開発事業を展開中である。ここでは、都市のコンパクト化、都市緑化、文化・芸術によるまちづくりなど、先駆的な都市更新手法が実現されている。また開発して終わりではなく、その後のタウンマネジメントを入念に行い、質の維持に努めている。さらに開発地は周辺までを含めた避難場所として機能するよう整備し、密集市街地が残る地域に対する責任をも果たしている。経済採算性から言えばオフィスに偏りがちな地域においても職住近接を実現し、着実な住宅供給を続け、地権者を除き基本的に賃貸(オフィス、住宅)とすることで管理の永続性を担保しており、まち全体の将来を考えた事業手法は極めて堅実である。賃貸住宅は利便性、安全性等、住宅のグレード全てが国際的に通用するレベルに仕上げられており、今後の都市居住の目標像ともなり得る。以上の点から、都市住宅学会業績賞の20周年記念表彰に相応しい事業として評価される。


2011年都市住宅学会賞業績賞

◆神戸市すまいの安心支援センター(すまいるネット)による住まいの総合支援事業
−阪神大震災の住宅復興支援から住まいの総合プラットフォームへ−

神戸市
神戸市すまいの安心支援センター

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すまいるネットは、阪神・淡路大震災直後から住宅再建相談や情報提供を行った「神戸・復興住宅メッセ」と「こうべすまい・まちづくり人材センター」の経験をもとに、市民のすまいの安全・安心をトータルにサポートする総合窓口として2000年に開設された。密集市街地における住宅復興の相談業務にとどまらない多様な住宅相談にくわえて、情報提供、啓発・教育、関係諸団体のネットワ−ク化支援など、幅広い活動を行ってきた。開設後10年間で、利用者数は32万1千人、相談件数は6万7千件を超える。
 そのコンセプトや業務内容には、(1)複数候補を相談者に示す業者選定支援、(2)第一段階で建築士や消費生活相談員、第二段階では弁護士なども対応する専門家相談体制、(3)全国に先駆けて開始した高齢者の住替え相談、(4)小中高等学校での住教育、(5)「すまいまちづくり本部」と協力して住宅と街づくりが両輪となって進める密集市街地解消の取組みなど、類例を見ない独創性がある。都市住宅学会賞業績賞に相応しい事業として評価される。


◆大阪・上町台地周辺地区におけるまちづくり情報の継続的な収集・編集・発信

弘本由香里(大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所 特任研究員)
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本事業は、2003年の「上町台地からまちを考える会」立ち上げ以降、上町台地周辺地域におけるまちづくり情報の継続的な収集・編集・社会への発信、等々を継続的に実施してきたもので、そうした8年程の運営・展開は、ユニークで、また意義深く、水・みち・住まい(特に、長屋・マンション・等)・みせ等々の再編成を意図し、都市に集まって住むための「まち基盤づくり」を行ってきたものといえる。人・コトをつなぐ場に、一貫して関わり続けた受賞者の存在意義は大きく、本事業を、力強く推進し、その成果を具体的に社会に発信し、所謂、コミュニティ・ディベロップメントに視座を置く活動となっている。まちづくり支援活動の担い手として、地域情報の発信やネットワークづくり、U-CoRoプロジェクト、等々といった、地域社会を見据えた各種事業の展開は、対象地域における壮大な実験モデルとして極めて意義深く、市民団体の枠組みを超えた受賞者のまちづくり支援活動業績としての評価に値する。以上より、本事業は、都市住宅学会賞業績賞に相応しい事業として評価される。



2011年都市住宅学会業績賞審査員

岩佐 明彦   新潟大学工学部准教授
碓田 智子   大阪教育大学教育学部教授
荏原 明則   関西学院大学大学院司法 研究科教授
唐渡 広志   富山大学経済学部教授
志村 秀明   芝浦工業大学工学部教授
鈴木 毅    大阪大学大学院工学研究科准教授
竹田 智志   明海大学不動産学部非常勤講師
田端 和彦   兵庫大学生涯福祉学部教授
福田 由美子  広島工業大学工学部教授
山鹿 久木   関西学院大学経済学部教授

(敬称略・五十音順)
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