2019都市住宅学会賞・業績賞

 

 公益社団法人都市住宅学会では、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、「都市住宅学会賞業績賞」として表彰しております。
 このたび2019年都市住宅学会賞業績賞 都市住宅学会長賞として8業績を選考し、表彰いたしました。2019年国土交通大臣賞は該当なしとさせていただきました。
 今回受賞した各業績は講評に示されるように、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。



【都市住宅学会長賞】


◆浜甲子園団地におけるエリアマネジメントの取組み

一般社団法人まちのね浜甲子園 代表理事 木村 友啓(株式会社長谷工コーポレーション)


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 UR団地の建て替えに伴う再生事業において、計画段階から民間開発事業者4社とURが事業パートナーになり、関西初のPPP方式で当該団地およびその周辺地域の価値向上に取り組むエリアマネジメントである。事業区画を購入した民間開発事業者が取得費の1.5%を一般社団「まちのね浜甲子園」に寄附し、事業者が運営側(理事)、URが監査(監事)、住民が個人会員となり、管理組合が一部制限された参加者(特別会員)となる組織形態であり、実際のエリアマネジメントは、株式会社HITOTOWAが担う。こうした組織形態は,今後のエリアマネジメントのあり方に示唆を与える。また、地域ニーズを見極めた活動や企画は、事業開始からわずか2年でHamaco LivingとOsampo-Baseの2拠点の開設に至り、自治会から全幅の信頼を得ている。2022年度以降の運営を,新街区入居者にバトンタッチするため,当初から解決するべき課題を明確に捉え、資金獲得・組織運営の担い手発掘と教育を行いながら、住民とコミュニケーションを取りながら組織化を進める様は、ソーシャルワークにおけるコミュニティーオーガニゼーションの手法としても評価できる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆住まいを活用した住民主体の地域マネージメント「地域共生のいえ」

一般財団法人世田谷トラストまちづくり
山田 翔太


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 本事業は、15年の実績があり、住宅をはじめとする私有の遊休空間を、まちづくりの拠点として活用することを促進するための取り組みである。受賞者は、空き家、空き部屋、リビングを、無理のない範囲で一時的に地域へ開放するオーナーや運営協力者に対する伴走的支援を行なっている。コミュニティと対話しながら進めてきた組織づくりは公共政策が踏み込み難いところにチャレンジした独創的な取り組みと高く評価する。 本事業は、空き地、空き家など地域財を充分に活用できない課題解決が市民の生活の中にあるということを気づかせ、地域主体の都市住宅政策の再検討を示唆している。長年の蓄積の上に制度の改良を重ね、支援要綱の策定を行なったことなど、本学会への貢献度も高い。
 さらに、住み開きをベースとして、行政、社協などによる民間資産活用型の事業へつなげる「民間プラットフォーム」の役割を果たし、安定した運営を続けてきた成果は、他地区においてもヒントとなり啓発的な効果が期待できる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆公営住宅の空き住戸を活用した「住宅つき就職支援プロジェクト MODEL HOUSE」

NPO法人HELLOlife 代表理事 塩山 諒

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 本事業は、空き家の増加が引き起こす問題をいかに解決していくかという住宅政策の課題に対して、不安定な雇用の壁によって自立と社会参加を疎外されている若者への就職支援という雇用政策の課題をリンクさせ、両者の課題解決に導いていく、格差社会の最前線で痛みを抱える若者に寄り添い支えてきたNPOだからこそ発想できる独創的な社会実験の立案と実践として評価できる。大阪府住宅関連部局、雇用政策部局、民間企業、そして若者といった様々なアクターを結び付けるため、2013年度からの準備期間を含めた粘り強い協議を積み重ねており、学際分野の都市住宅学にとっても示唆に富む事業として結実している。若者の自尊感情を増進する工夫も行いながら、地域の中小企業と連携を取るなど、福利厚生や経済活性化の点においても社会的貢献が顕著である。



◆気仙沼市内湾地区の復興まちづくり市民事業による災害公営住宅および地域コミュニティ拠点の整備

早稲田大学都市・地域研究所 阿部 俊彦
住まい・まちづくりデザインワークス 岡田 昭人
住まい・まちづくりデザインワークス 津久井 誠人
住まい・まちづくりデザインワークス 野田 明宏
アルセッド建築研究所 益尾 孝祐
アルセッド建築研究所 大橋 清和
チームまちづくり 松本 昭
チームまちづくり 川崎 泰之
谷澤総合鑑定所 紅谷 和宏
松田平田設計 田中 信也
松田平田設計 我如古 達志
CASEまちづくり研究所 松富 謙一
CASEまちづくり研究所 天野 弘章
CASEまちづくり研究所 佐藤 裕
近畿大学寺川研究室 寺川 政司
コープラン 吉川 健一郎
気仙沼市派遣<足立区> 島田 修
気仙沼市派遣<東京都> 海老原 雄紀

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 本事業は、津波による甚大な被害があった気仙沼市内湾地区で、地域住民、商業者、行政、地域の復興を支援する専門家が協働して実現した住まいと生業の再建のための共同化事業である。早期再建を望む地権者の土地等を集約換地した4つの先行街区において、それぞれの地区の特性を最大限生かしつつ、店舗再建のためのグループ補助金の活用や保留床として災害公営住宅の買い取り方式を提案し、生業と住まいを同時に再建した手法は高く評価される。各地区のコミュニティ拠点をはじめとして、住民のニーズにきめ細かく対応しつつ、多様で魅力的な用途空間を整備し、地域全体の復興まちづくりに寄与していること、また本事業を通じて、建物の維持管理のみならず持続可能な地域運営の中核を担うまちづくり会社が設立されたことも特筆される。今後の復興支援のあり方を考えるうえで示唆に富む優れた取り組みで、地域社会への貢献は極めて大きい。



◆団地リノベーション 「ニコイチ」


大阪府住宅供給公社 理事長 堤 勇二

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 大阪府堺市および寝屋川市において、コンペ形式で住戸のニコイチ化に取り組み、4年間で32戸の空き家を子育て世帯に対応した住戸にリノベーションしている。平成30年度は、早めの客付けのため、建築家+工務店+あっせん業者のチームで事業公募を行うほか、採算制を考慮して一定規模の戸数を確保して事業公募するなど、4年間の実績を踏まえた工夫が認められる。竣工当時の45uの住戸には脱衣室や洗濯機置き場等がなく、設備向上のうえでもニコイチ化は必要であるが、公室と私室の異なる住戸への配置や通り庭や土間など、新たな住まい方としての提案も盛り込まれている。くわえて、こうした取り組みが、茶山台団地では、団地の一室を使った高齢者の買い物支援と孤食を防ぐ「やまわけキッチン」、専門スタッフによる技術サポートや相談室等を行う「DIYのいえ」など、空き家の総合的対策とあわせて実践されている点も特筆すべきである。投資額は通常のリノベーションよりも高いが、入居申し込み倍率が高く、4−5年で元が取れているなど、経済的観点からも合理的な実践といえる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆諏訪2丁目住宅建替え事業の実現に向けた長期的な取り組みとその事後評価


旧諏訪2丁目住宅マンション建替組合 元理事長 加藤 輝雄
東京建物株式会社
株式会社鳩ノ森コンサルティング 山田 尚之
株式会社 松田平田設計
NPO法人多摩ニュータウン・まちづくり専門家会議 戸辺 文博
大月 敏雄
深井 祐紘


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 本事業は、多摩ニュータウンにおける最初期の日本住宅公団分譲の「諏訪2丁目住宅」640戸(23棟)が、民間分譲マンション「Brillia多摩ニュータウン」1249戸(7棟)に建替えられた計画であり、分譲住宅一括建替えの先駆的かつ成功事例として評価することができる。その背景には管理組合の居住環境の充実に向けた、主体的かつ継続的な活動が見られるとともに、事後評価までを住民主体で行い、その情報を報告書等の作成・配布により積極的に発信していることにも注目すべき点がある。また、新規居住者は子育て世帯が中心であり、高齢者が中心であった団地が、さまざまな世代が暮らすニュータウンとして生まれ変わり、地域の活力の向上やコミュニティ形成に寄与した点もおおいに評価できる。竣工後6年が経過し、新旧住民が融合した管理組合の運営のもとで、居住者の暮らしもなじみを見せ、地域施設の利用も活発となっており、豊かな居住環境が形成されていることを見て取ることができた。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆大阪長屋の保全・活用情報を発信する「オープンナガヤ大阪」の連続開催


大阪市立大学長屋保全研究会
オープンナガヤ大阪実行委員会
大阪市立大学名誉教授・オープンナガヤ大阪実行委員会委員長 藤田 忍
大阪市立大学教授 小伊藤 亜希子
大阪市立大学教授 中野 茂夫
大阪市立大学准教授 福田 美穂
大阪市立大学准教授 小池 志保子
大阪市立大学研究補佐 綱本 琴
連・建築舎 伴 現太
coil 松村一輝建築設計事務所 松村 一輝
関西木材工業株式会社 植森 貞友
Office for Environment Architecture 吉永 規夫


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 本事業は、減少が続く大阪の伝統的木造長屋の魅力の発信と保全・活用をめざすオープンハウス・イベントである。イベント参加者は、改修された長屋を巡り、空間を体験し、暮らしを肌で感じる。8年連続で開催されており、参加者数、知名度ともに高いイベントに発展してきている。このイベントは、参加者に多様な再生モデルを提示するだけでなく、関係者(再生長屋の居住者・利用者、潜在的ユーザー、技術者など)の相互交流、長屋ネットワークの形成、再生技術に関する情報提供の機会を作り出し、長屋の保全・再生の促進に大きく貢献している。さらに特徴的なことは、イベントの企画・運営、広報を主に学生が担い、公式ガイドマップやウェブサイトの作成、会場案内、活動記録集の作成などを年間通して行っている点である。まさに教育と実践が結びついた事業であり、開催継続によりさらに高い教育効果が認められている。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆公民連携による住み働く新しい形「ヨリドコ大正メイキン」の再生と地域への波及を目指した一連の取り組み


一般社団法人 大正・港エリア空き家活用協議会 代表理事 川幡 祐子

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 大阪市大正区で工場労働者の受け皿住宅として建設された築60年を超える重層長屋をシェアアトリエと住宅へと再生させたプロジェクトである。特に以下の点を高く評価した。
・プロセスを開いた:改修の過程で複数回の市民見学会を実施することで、耐震改修普及に寄与し、近隣に親しまれる拠点となった。見学者による新たな事業など波及効果が認められる。
・地域特性を活かしたプログラム:ものづくりのまちの特徴を活かし、古い長屋を今日のものづくりの場へと再生させたことにより、衰退化しつつある地域社会の活性化に寄与する拠点となっている。
・公民専学連携:専門家の協議会、民間オーナー、区役所がそれぞれの立場で連携し、DIYには大学研究室も参加している。
・既存長屋を活かした空間づくり:長さを活かして異なるクリエイターが共存しつつある程度距離を保てるシェアアトリエを実現している。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。





2019年都市住宅学会業績賞審査員

新井 信幸  東北工業大学工学部建築学科准教授
安藤 至大  日本大学経済学部教授
小浦 久子  神戸芸術工科大学環境デザイン学科教授
島田 明夫  東北大学大学院法学研究科教授
祐成 保志  東京大学人文社会系研究科文学部准教授
田端 和彦  兵庫大学生涯福祉学部社会福祉学科
所  道彦  大阪市立大学大学院生活科学部人間福祉学科教授
弘本 由香里 大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所特任研究員
室ア 千重  奈良女子大学生活環境学部住環境学科講師
安枝 英俊  庫県立大学環境人間学部准教授
山鹿 久木  関西学院大学経済学部教授
                               (敬称略・五十音順)


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