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第5回(2008年度)関西支部 中部支部 中国・四国支部合同学生論文コンテスト

 都市住宅学会関西支部,中部支部,中国・四国支部では,第5回学生論文コンテスト公開発表会・選考,表彰式を 2009年3月14日(土),大阪ビジネスパークのURサポート会議室において,3支部合同で開催した.発表会では,卒業論文部門の応募論文5編(関西支部5編)と,修士論文部門の応募論文7編(中部支部2編,関西支部5編)についてそれぞれ発表と質疑応答が行われた.卒業論文,修士論文ともに,そのテーマや対象が多彩で,全体として水準が高く優劣をつけがたいものであったが,10名の選考委員からなる選考委員会による審査の結果,卒業論文部門では,最優秀賞1編,優秀賞2編,修士論文部門では最優秀賞1編,優秀賞2編を選出した.表彰式では,檜谷美恵子関西支部支部長,小川正光中部支部副支部長よりそれぞれ表彰状が授与され,その後,三輪康一実行委員長より審査講評が行われた.

卒業論文部門最優秀賞
上野 麻衣(大阪市立大学生活科学部居住環境学科)

高齢者施設の建築特性と「はきもの」の使用-小規模多機能ホームを対象として-
高齢者施設における「はきもの」の使用実態から,その建築計画的な課題を検証することを目的とし,全国の小規模多機能ホームを調査対象とするアンケート調査と図面分析を行ったものである.分析の結果,「はきもの」の使用は,利用者の身体的特性のみならず,建物の構造種別や床面積規模などの建築特性の影響を受けていることを示している.「はきもの」という生活行動と空間とを関係づける具体的な対象に着目して,高齢者施設の建築計画にアプローチした,そのユニークな視点が高く評価された.また,精緻な分析の方法と,発表時のプレゼンテーション,質疑応答の明快さもあわせて評価され,最優秀賞にふさわしい論文であるとされた.

卒業論文部門優秀賞
城石 早紀・亀谷 二季(武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科建築デザインコース)

浜甲子園団地の再生設計-路地のある団地-
昭和30年代後半に建設された兵庫県の浜甲子園団地の一部を対象とした団地再生の卒業設計作品である.設計のコンセプトとして「人の活動を誘発・活性させるような“再生”」を掲げ,その具体的方法として,多機能分散,暮らしがにじみ出る外部空間としての中間領域,学生の取り込み,既存の緑の保全を提案し,これによって,「路地のある団地」をめざすものとしている.デザインのコンセプトが明快で,その結果,設計作品では,中間領域としての“ハコ”が住棟間に魅力的な“路地”空間をつくりだしている.建替え事業としての実現性,構造的妥当性などは別として,夢のある,いきいきした提案として評価された.

福地 真美(福井大学工学部建築建設工学科)
福井市自治会型デイホーム事業の実態に関する調査研究
「日中の生活の場」を提供する福井市の自治会型ディホームという新たな福祉サービスに着目し,その事業の実態と課題を明らかにするものである.そのため,現地での観察調査とともに専任職員と協力ボランティアへのアンケート調査を実施し,事業体制による6つのタイプ別に分析結果を取りまとめている.その結果,ディホームとしての効果,評価は高いが,利用率の向上が課題であることを指摘している.研究目的に対して段階的な調査分析内容は的確で,一定の結論を提示している点が評価された.ただ事業体制や利用実態について,さらに踏み込んだ地区ごとの特性比較があればより有用な知見となったと思われる.

修士論文部門最優秀賞
澁谷 知子(京都府立大学大学院人間環境科学研究科生活環境科学専攻)

丹後・沿海集落の空間構成とその形成に関する研究
丹後地域の沿岸部に立地する集落を取り上げ,その空間構成の特徴を把握し,その形成過程からその原理を導こうとするもので,集落研究のうちでも,集落の空間形成を歴史的な視点から捉えようとしている丹念な研究である.フィールド調査と史料調査から各時代の集落地割の復原図を作成し,これにより,集落形態を類型化し,類型ごとに,その主屋配置から「山裾型集落」と「谷筋型集落」に分けて形成過程を説明している.さらに,水場の立地と社寺,路地との関係を示し,集落形成過程における水場の立地の重要性を示唆している.精力的な現地調査による緻密な地割図の作成,分析考察における論理的展開の確かさ,得られた結論の有用性などにより,最優秀賞にふさわしいものと高く評価された.

修士論文部門優秀賞
中津貴美子(京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻)

京都市における既存集合住宅の改修を伴う流通ビジネスに関する研究
既存集合住宅の住宅市場でのあり方のなかでも,改修による影響が市場にどのように反映されているかに着目し,既存集合住宅市場分析と不動産事業者へのヒアリングを通じて,改修を伴う流通ビジネスの実態把握に取り組んだ労作である.想定されるビジネスモデルを分類し,それぞれに対応する事業者へのヒアリングの分析から,改修の付加価値が市場価格にあまり反映されていないこと,改修実例を見ることで改修へのニーズを発生させることもあることを結論として指摘している.都市住宅の今日的な課題に取り組むものであるが,研究の位置づけが確かで,結論にいたる分析の絞込み方と論理的展開が優れていると評価された.

多原 明美(三重大学大学院工学研究科建築学専攻)
居住空間におけるフレキシビリティの活用手法に関する研究
概念・手法・調査の三側面からの考察を通じて
居住空間における多様なフレキシビリティの概念を整理し体系化する方法を提案し,設計手法として確立することを目的とするもので,その設計者の活用手法と,居住者の活用実態の関係を,集合住宅作品事例についての居住者アンケート調査によって把握し検証している.居住空間が均質でなく利用者の要求に応じたフレキシビリティがいかに確保できるか,そして,それを設計手法の提案にいかに結びつけるかという筆者の問題意識が明確で,設計における基礎的な方法論の展開に挑戦した意欲的な研究であること,茫漠とした多様な概念を,プロファイルチャートの作成という方法によって体系化することを示し得たことが評価された.

文責:三輪康一(神戸大学)