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第6回(2009年度)関西支部 中部支部 中国・四国支部合同学生論文コンテスト

 都市住宅学会関西支部,中部支部,中国・四国支部の3支部合同の,第6回学生論文コンテスト公開発表会・選考,表彰式は2010年3月13日(土),午後1時より大阪ビジネスパークのURサポート会議室において開催された.本年度の応募論文は,卒業論文部門が3編(関西支部2編,中国・四国支部1編)と,修士論文部門が2編(関西支部2編)と,例年に比べて応募数は少なかったものの,発表会では,すべての応募者からの発表と質疑応答が行われた.両部門ともに,テーマや対象が多彩で,いずれも水準が高く優劣をつけがたいものがあり,選考委員会による厳正な審査の結果,卒業論文部門では,最優秀賞1編,優秀賞2編,修士論文部門では最優秀賞1編,優秀賞1編を選出した.表彰式では,檜谷美恵子関西支部支部長,福田由美子中国・四国支部幹事よりそれぞれ表彰状が授与され,また,三輪康一実行委員長の審査講評の後,松山明中部支部幹事長,福田由美子中国・四国支部幹事,檜谷美恵子関西支部支部長よりコメント,挨拶をいただいて閉会した.

卒業論文部門最優秀賞
脇坂 知歌(京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科)

「1970年代に開発された狭小敷地戸建て住宅地の経年変化と空き家特性に関する研究」
わが国では,住宅数が世帯数を上回る現状と,人口減少社会の進行により,空き家問題は住宅政策上の大きな課題になりつつある.本研究は,京都市において1970年代に開発された戸建住宅地を対象に,空き家の実態と経年変化を分析し,空き家の進行を抑制する方策を探るための基礎資料を得ることを目的としている.分析の結果,狭小敷地に起因する居住者の入れ替わりの多さが,空き家を生じさせていること,また空き家となった隣地を買い増しし,合筆後建て替える(二戸一化)も生じていることを示している.今日的なテーマ設定に対して,実証的な分析方法で結論を導いたことが高く評価され,最優秀賞にふさわしい論文であるとされた.

卒業論文部門優秀賞
南地 容子(武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科建築デザインコース)

「地域活動・コミュニティ活動の場に関する調査研究-兵庫県三田市つつじが丘の場合-」
少子高齢化,人口減少社会など社会情勢の大きな変化のなかで,人と人のつながりを築く地域コミュニティ活動の拠点となる自治会館に注目し,その利用実態の分析から,利用されるための条件を導こうとする研究である.兵庫県三田市の民間開発住宅地を対象に,自治会館を利用している地域団体へのヒアリングやアンケート調査を実施し,利用実態を把握し考察することから,利用しやすい施設の条件として,空間規模,開館時間,目的外の交流の3点を導き,さらに管理体制についての提案を行っている.市民センターと自治会館の比較分析を含む丁寧な調査分析を踏まえて,これからの地域施設に必要な条件を提示したことが評価され,優秀賞にふさわしい論文であるとされた.

武田 晋(鳥取環境大学環境情報学部環境デザイン学科)
「居住環境における道空間-鳥取とベェネチアの市街地ケーススタディ-」

市街地における道と沿道の建築群からなる道空間に注目し,道空間を構成する諸要素について,定量的な分析をもとに評価しようとする研究である.そのため,分析の対象となる道空間として,鳥取の4地区事例とヴェネチアの事例を取り上げ,道の形態,道のレベル,曲がり,D/H,スカイラインの1/fゆらぎ値などの各指標について比較分析している.都市空間の物理的状態を記述し,評価しようとするアーバンデザインの基礎的研究は従来からも多くみられるが,本研究は,道空間を総合的に把握するための多様な指標を採用し,空間を一体的に把握しようとする,学生ならではの意欲溢れるものとなっている.優秀賞にふさわしい論文であるとされた.

修士論文部門最優秀賞
松吉 晶子(大阪教育大学大学院教育学研究科健康科学専攻)

「在宅療養を推進するための看護専門学校における住教育に関する研究」
看護師養成学校における教育カリキュラムに「在宅看護論」が新設されたことを背景に,看護専門学校における住教育のあり方を検証することを目的としており,住環境分野の授業実態や教員の意識,訪問看護師からみた療養者の住環境の実態,住教育プログラムの試行とその評価など多面的で重要な分析を行った結果,看護の側面における住教育の課題を明らかにしている.医療と住宅問題の連携に関わる重要なテーマに取り組むもので,研究の位置づけ,目的,問題意識が極めて明確であり,結論にいたる論理的展開も優れている.また,その発表は,住教育とは何かという点について,改めて問いかけるメッセージとなっている.以上により,最優秀賞にふさわしいものと高く評価された.

修士論文部門優秀賞
藤井 詩織(京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻)

「民間事業者が管理する学生寮における共同生活の自主運営に関する研究-シェアフラット桜木を事例として-」
本研究は,学生が共同生活を自主運営する学生寮のうち,民間事業者が供給管理する京都市の事例を対象に,その自主運営の実態と推移を論じ,自主運営を円滑に機能させるための条件を提示しようとするものである.そのため,事例における,事業者,居住者へのヒアリングを通じて,共同生活の自主運営の変化を,とくに事業者の支援との関係で詳細に分析し,その結果,自主運営を率先する居住者の存在,居住者同士の連絡機能,外部からの支援が重要であることを指摘している.現代における学生寮として,共同空間をもち,共同生活を自主運営する新しいタイプの住まいへの可能性を予感させるもので,テーマの新規性,分析における論理性から優秀賞にふさわしい論文であるとされた.

文責:三輪康一(神戸大学)