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第4回(2007年度)関西支部 中部支部 中国・四国支部合同学生論文コンテスト

都市住宅学会関西支部,中部支部,中国・四国支部では,第4回学生論文コンテスト公開発表会・選考,表彰式を 2008年3月8日(土),大阪ビジネスパークのURサポート会議室において,3支部合同で開催した。発表会では,卒業論文部門の応募論文4編(中部支部1編,関西支部3編)と,修士論文部門の応募論文9編(中部支部1編,関西支部8編)についてそれぞれ発表と質疑応答が行われた。卒業論文,修士論文ともに全体として水準が高く,とくに卒業論文は優劣をつけがたいものであったが,12名の選考委員からなる選考委員会による審査の結果,卒業論文部門では,優秀賞4編,修士論文部門では最優秀賞1編,優秀賞3編を選出した。表彰式では,三宅醇中部支部長,高田光雄関西支部長よりそれぞれ表彰状が授与され,その後,高田光雄審査委員長より審査講評が行われた。

卒業論文部門優秀賞
中村 真理(京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科)

京都市都心部における駐車場の立地に関する研究
都心部で歩行者優先のまちづくりを進めることを前提に,京都都心部を対象として,駐車場の実態を示し,その土地利用転換を進める条件を探ろうとする研究である。とくに,従来あまり論じられることのなかったコインパーキングについて,その立地特性や発生のメカニズムを詳細に論じており,有用なデータを提示している。都市交通対策についての問題意識も明確で,丁寧な分析作業をもとにして研究論文としてまとまっている点が高く評価された。ただ都市居住という視点がやや弱く,そうした論点についての考察も望まれるところである。

卒業論文部門優秀賞
山下 真輝(奈良女子大学生活環境学部人間環境学科)

奈良町の町家における現代の中庭のあり方について
伝統的な町家における中庭を,生活の質を高める装置として見直し,現代における中庭のあり方を探ろうとする意欲的な研究である。奈良町の町家を対象とした実態調査から,中庭の継承のあり方を分類し,継承型,再生型,放置型,消滅型の4つの型を抽出して,それぞれの問題点を論じている。都市住宅についての明解なテーマ設定と,実施が困難であったと思われる住宅内部調査によって得られた有用なデータを提示している点が高く評価された。ただ,分析や結論において,中庭の精神性に多く言及しているが,調査データを踏まえた客観的な論旨展開を基本にすべきとの意見もあった。

卒業論文部門優秀賞
山中 裕子(大阪市立大学生活科学部居住環境学科)

博物館と大学生の連携による住教育プログラムの開発と評価-大阪市立住まいのミュージアムの展示室を活用した体験型プログラム-
大阪市の住まいのミュージアムで開発,実施された,こどもと留学生を対象とした住教育プログラムの効果を検証することで,博物館と大学生の連携の可能性を探ろうとする実践的研究である。著者自らが開発に参加した住教育プログラムを運用し,その受講者による評価を分析することから,プログラムの有効性を示している。住教育に関して意義のあるプログラムの開発,実施,評価に自ら関わり,一貫した道筋の成果としてまとめたことが高く評価された。ただ,その評価の分析方法については,説明が必ずしも十分ではなく,客観的な評価方法の確立が望まれる。

卒業論文部門優秀賞
品田麻衣・田中里奈(椙山女学園大学生活科学部生活環境デザイン学科)

中古住宅ストックの評価基準に関する研究
中古住宅ストックの有効活用を推進するための評価基準の提案を目的とする研究である。不動産価値評価の現状の課題を踏まえた独自の建物評価項目を作成し,住宅関連企業と居住者に対するアンケート・インタビュー調査によって,評価項目の重要度を考察し,既存住宅ストックの価値基準を提案している。わが国の住宅政策上の重要で大きなテーマに取り組む姿勢,問題意識が明確であり,調査にもとづく結論を導いたことが高く評価された。ただ,分析内容から結論となる提案への論理的展開をより充実させることで,さらに一貫した客観性をもちえたと思われる。

修士論文部門最優秀賞
滝 彩子(名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻)

県営住宅の子育て支援モデル事業にみる公営住宅における生活支援拠点設立の可能性と課題
愛知県の県営住宅の共用空間を活用した子育て支援モデル事業を事例として,公営住宅における生活支援拠点設立の可能性を探ろうとする研究である。モデル事業の実施内容を詳しく分析し,団地住民や地域団体との連携,団地内の空間利用など,精緻で総合的な評価から,結論として,支援団体の特性や経済的な循環など一定の条件のもとで,地域全体に必要なサービスを提供していく可能性があることを導いている。今日の住宅政策において社会的にも重要なテーマに果敢に取り組み,実証的な分析をもとにして有用な成果を上げたことに高い評価が寄せられた。

修士論文部門優秀賞
坂田 憲治(京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻)

京都市都心部における景観規制下での既存集合住宅市場の動向-市場分析と管理組合へのヒアリングを通じて-
景観規制によって,資産価値の低下が懸念されている既存不適格集合住宅について,維持管理,環境管理によってその価値の維持が可能になる,またそう評価すべきとの問題意識のもと,京都都心部を対象として,既存集合住宅市場の動向を把握する研究である。市場分析と,管理組合へのヒアリングを通じて,景観規制により資産価値が低下するとは限らず,立地条件,管理活動等が市場動向に影響していることを示している。景観と既存住宅市場の関係という今日的なテーマに取り組んだ意欲的な論文である点が高く評価された。ただ,不動産評価と維持管理の評価との関係がより詳細に分析,説明されることが今後の課題であるといえよう。

修士論文部門優秀賞
藤井 久美子(大阪市立大学大学院生活科学研究科生活科学専攻)

住まいにおける妻の専用スペース要求と住まい方-いくつかのワークグループに注目して-
住まいにおける妻の専用スペースの要求,実態,発生のプロセスを明らかにし,今後の住宅計画に反映させることを目的としている。そのため,調査対象として,建築関連業種,教育職,地域活動に従事している特定のワークグループを取り上げ,事例調査をもとに,仕事の実態と住宅における専用スペース確保の様態を明らかにしている。その結果,調査対象者にとって,ワークスペースとしての専用スペースに対する必要性と要求が大きいことが示された。居住と仕事の相互関係という新しい視点から一定の結論を得たことが高く評価されたが,今後の住居計画への反映の視点により深く言及できれば,なお望ましいと思われる。

修士論文部門優秀賞
森 ゆかり(武庫川女子大学大学院生活環境学研究科生活環境学専攻)

食に関わる空間の現状とそのあり方に関する研究~小学生と母親の視点からの分析~
食に関わる住空間を食空間と位置づけし,その食空間に関する評価を,小学生による作文と見取り図,主婦の立場から回答を得たアンケート調査によって明らかにする意欲的な研究であり,食空間という視点と調査分析方法,さらには発表時のプレゼンテーションも高い評価を受けた。研究の取り組みにおいて,食に関わるメディア,文化論など幅広い視点からアプローチしているが,結論では,DK一体型,DK別型,カウンター型,アイランド型の4つの類型ごとの評価に帰結されており,テーマ設定と結論との間にややバランスを逸したことが惜しまれる。

文責:三輪康一(神戸大学)