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第3回(2006年度)関西支部 中部支部 中国・四国支部合同学生論文コンテスト

都市住宅学会関西支部,中部支部,中国・四国支部では,第3回学生論文コンテストとして, 2007年3月10日(土),大阪ビジネスパークにあるURサポート会議室において,3支部合同での公開発表会と審査,表彰式を開催した。発表会では,卒業論文部門の応募論文3編(中部支部1編,関西支部2編)と,修士論文部門の応募論文4編(中国・四国支部1編,関西支部3編)についてそれぞれ発表と質疑応答が行われ,9名の選考委員からなる選考委員会による審査の結果,3支部全体で,卒業論文部門では,最優秀賞1編,優秀賞2編を,修士論文部門では最優秀賞2編,優秀賞2編を選出した。

卒業論文部門最優秀賞
飯田 剛士[三重大学工学部建築学科]

芦屋浜シーサイドタウン高層住区の経年変化に関する研究-共用空間の利用と居住者の意識・変化-
工業化工法を主題としながらテーマ広場・空中公園など多くの提案的な要素が盛り込まれた1979年竣工の芦屋浜シーサイドタウン高層住区を対象に、住環境の状況や共用空間・施設の利用実態及び居住者の意識・評価について、経年変化の実態を明らかにした研究である。1980年と1989年の調査結果との比較が可能な観察調査・アンケート調査、居住者23名に対する個別ヒアリング調査など、調査方法が精緻に計画されている。また、内容面でも少子高齢化の状況と空間利用との関係も明確に示され、本事例や高層集合住宅一般に対する改善提案も言及されている。以上の諸点が高く評価された。

卒業論文部門優秀賞
木村 有里[滋賀大学教育学部学校教育教員養成課程]

阪神・淡路大震災が保育所の防災意識に及ぼした影響
保育所の防災対策の現状を明らかにし,とりわけ阪神・淡路大震災を経験した地域と,その他の地域における保育所の防災に対する意識の差異に着目した研究である。震災を経験した兵庫県と滋賀県の認可保育所,計349園に対して実施したアンケート調査をもとに,地震防災マニュアルの整備状況,緊急時の保護者や地域との連携などの実態を明示し,両県の保育所の災害への対応や建物耐震性への意識の違いから,阪神・淡路大震災がそれぞれの保育所の防災意識に及ぼした影響について有意義な結論を導いた点が高く評価された。

卒業論文部門優秀賞
伊藤未樹子[滋賀大学教育学部情報教育課程]

高齢社会の視点に立つ新しい住宅形態への満足感と適応に関する日韓比較研究
日韓の高層住宅の住環境について,とくに高齢者の居住環境への適応性,安全性に対する意識を比較分析した研究である。ソウル市と大阪市の高層住宅居住者へのアンケート調査とヒアリング調査(ソウル市)をもとに,緻密な分析を行い,日韓の高齢者の住環境意識の類似性と差異を提示するとともに,住棟でのコミュニティ形成に関しては韓国の老人亭に注目し,その有効性を提示するなど,高齢者の高層住宅居住という今日的なテーマに対して,日韓比較研究の観点から有用な結論を導き出したことが高く評価された。

修士論文部門最優秀賞
池田 亜依[広島工業大学大学院環境学研究科地域環境科学専攻]

集落の空間構成に関する研究-祝島集落の空間構成要素を中心とした考察-
受賞理由:「路居」と名付けたユニークな集落空間を形成する「祝島集落」について,その空間構成要素の確認とそれらの相互関係の考察を行い空間構成要素の枠組み化を行い,祝島集落の「路居」を基本とした空間構成は他では見られない独特なものであることを検証している。ハード・ソフト両面にわたる克明な調査と鋭い考察に基づく論理構築によって集落の形成構造と価値を明示した点がより高く評価された。

修士論文部門最優秀賞
森田 恭平[大阪市立大学大学院生活科学研究科居住環境学コース]

近世・近代における大阪の借家に関する住居史的研究
近世大坂,近代大阪の借家について,その集住地区の空間構造,借家人の住生活,貸家経営と裸貸の3つの論点についての分析をもとに,近世から近代への借家がどのように変遷してきたかを論じた意欲的な研究である。借家の間取りや路地空間の分析から近世借家と近代借家の空間構造の差異を示し,借家人の家財道具の近世,近代の比較を独自の史料をもとに提示するとともに,裸貸の変遷を借家経営の観点から論じている。確かな史料をもとにした多様で精緻な分析方法,明晰な論旨展開により有用な結論を導いた点が高く評価された。

修士論文部門優秀賞
中田  陽[大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻]

千里ニュータウンにおける新規分譲住宅の供給とその効果に関する研究
オールドタウン化がとりざたされている千里ニュータウンについて,民間分譲集合住宅の供給がその地域運営上重要であるとの観点から,新規供給実態とその効果を論じた調査研究である。開発実態から千里ニュータウンの住宅供給における民間分譲集合住宅の位置づけを考察し,その居住世帯へのアンケート調査から,住み替え動機や地域との関わりにおける特性を明らかにしている。民間分譲集合住宅の位置づけを独自の視点で確認し,ニュータウンの持続性にとって,重要な機能を果たす可能性を示唆した点が高く評価された。

修士論文部門優秀賞
高間 勲[京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻]

都心居住支援を目的とした地域資源データベースの開発に関する研究-上町台地界隈を対象にして-
都心居住者が地域の文化を再生産していくことの意義を前提とし,地域資源データベースによる都心居住支援のあり方を論ずるとともに,実際にデータベースを作成し,その効果を検証した実証的な研究である。地域資源データベースの役割を演劇のアナロジーで論じ,イベント情報と地域資源情報からなるデータベースの開発と,その効果を,参加の促進,担い手の生成,育成の面から確認している。テーマの新規性,具体的,実証的な論旨展開と今後の発展性が高く評価された。

文責:高井宏之(三重大学)・間野 博(県立広島大学)・三輪康一(神戸大学)